縄文の神聖幾何学

「ホツマツタヱ」「ミカサフミ」「フトマニ」に秘められた神聖幾何学の叡智を探る。

ヲシテと古代錬金術

1. ニココロ

 前回前々回のブログで縄文のヲシテ文献ミカサフミ ワカウタのアヤ』の一節を紹介し、そこに書かれた「ニココロ」「ニの道」「ニを生まんとて」のことを説明しました。「ニ」の心とは、陰陽和合や調和へと至る(あるいは至った)精神のことです(融合意識、キリスト意識)。縄文時代は約1万2000年の長きにわたって、戦のない平和な時代だったと言います。そんな縄文人たちの精神が「ニココロ」であったのかもしれません。ブッダの説く慈悲やキリストの説く愛にも通じるところがありそうです。

  そして、民衆に「ニココロ」を教え育む「ニの道」の伝承者の役目を、イサナギ・イサナミから受け継いだのが長女ワカヒメ(ヒルコ)です。そこで、ワカヒメは「ニウの守(神)」とも呼ばれました。

2. 丹生

 「ニウの守(神)」という称号は、「ニココロを生む」という意味だけでなく、じつはもうひとつ「丹を生む」という意味も込められています。

 「丹」とは、朱色(赤色)の顔料のことです。古代の朱には、ベンガラ、辰砂(しんしゃ)、鉛丹の3種類がありました。ベンガラは旧石器時代から使われており、辰砂は縄文時代中期から、また、鉛丹は弥生時代以降に中国大陸から伝来しました。

 縄文時代には、土偶や土面など祭祀に使う道具が赤く塗られることが多くあります。また、墓の底に赤色顔料がまかれるといった利用もされています(これは「施朱」と呼ばれ、旧石器時代から世界各地で見られる風習で、日本においては古墳時代まで行われていました)。縄文人にとって、赤は神聖な色であり、魔除けや死者の復活を願う意味があったと考えられています。

 なお、辰砂は赤色の顔料として使われただけではなく、古墳時代後期以降には、辰砂を精製して水銀を作り、鍍金(めっき)に活用されました。辰砂は硫化水銀からなる鉱物で、400~600 °Cに加熱すると水銀蒸気と亜硫酸ガスが生じ、その水銀蒸気を冷やすことで水銀を取り出すことができます。水銀は常温で液体状の金属というだけでもユニークですが、そのほかにも他の金属と混じり合うという特殊な性質があります。例えば金を近づけると、まるで吸い込むようにして金を溶かしてしまいます。その柔らかい水銀と金の合金を使って鍍金を施し、火にかざすと水銀だけが蒸発して、金ピカに仕上がるというわけです。奈良の大仏もこの方法で金メッキが施されました。

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写真左:辰砂、右:辰砂の結晶(掲載元:関東塗料工業組合HP)

 この辰砂は水銀鉱床から採掘されるもので、ベンガラのようにどこにでも存在する鉱物ではありません。各地に丹生という地名や丹生神社がありますが、そこが辰砂の採掘・加工が行われた土地です。また、弥生時代から古墳時代にかけて、辰砂の採掘・加工に携わっていた一族が丹生氏で、彼らの祀る神、丹生都比売はおそらく「ニウの守(神)」と同一神と思われます。

3. 五大元素と金属

 ところで、ヲシテ文献によると、古代の日本人は、万物は空(ウツホ)、風(カセ)、火(ホ)、水(ミツ)、土(埴・ハニ)の五元素の組み合わせでできていると考えていました。上に述べた鉱物や金属について、ホツマツタヱ15『ミケヨロヅナリソメのアヤ』につぎのような一節があります。

ハニウツホ ウケテバハイシ(埴、空 受けてバは石)
スガハタマ ヤマニウツホノ(スガは玉 山に空の)
トホリナル アラカネノアハ(透りなる あら金のアは)
スズナマリ スガハハキカネ(錫、鉛 スガはは黄金)
シシロカネ ウビニアカカネ(シ白金 ウビニ赤金)
バクロカネ ソレハギハキニ(バ黒金 それ萩は黄に)
キリハシロ ヒノキハキアカ(桐は白 檜は黄赤)
クリハクロ デルアラカネオ(栗は黒 出るあら金を)
タタラナシ フイゴニネレヨ(タタラ成し フイゴに練れよ)

 意味は以下のとおりです。

 土(ハニ)は空(ウツホ)が混ざって固まると鉱物質の物質になります。土の性状によってどのような物質になるかが決まるのです。例えば「バ」という泥土が空を受けると石になり、「スガ」という清らかな砂浜のような土だと玉になるのです。

 山岳をなすような岩質の土に空が浸透すると金属になります。岩質の土にも様々な性状があり、その性状と空の占める割合で金属の種類が決まるのです。一般的な岩質の上に空が多く浸透すると錫(すず)や鉛になるのですが、岩質が「スガ」だと金になります。「シ」というさらさらな白色の土だと銀になります。そして岩質の土が「ウビニ」という粘土質だと銅になり、「バ」の性状だと鉄になるのです。

 地中に各種金属の鉱脈があると、それを好む植物が生育します。萩は金、桐は銀、檜は金や銅、栗は鉄というように、地中に鉱脈があるとその上の地表を好んで生えます。

 私たちはこの性質を利用して鉱脈を探り当て、粗鉱を掘り出し、タタラでフイゴを稼働させ、精錬して各種金属を得るのです。(今村聰夫著『はじめてのホツマツタヱ』より引用)

 

 一般的にタタラ製鉄は5世紀前後、古墳時代から始まったと言われていますが、いまだ詳しいことは分かっておらず、弥生時代あるいは縄文時代まで遡るという説もあるようです

 ちなみに、『ホツマツタヱ』は前述の第15アヤを含む『天の巻』と『地の巻』が初代人皇イハワレヒコ(神武天皇)の御代に、また『人の巻』が人皇12代ヲシロワケ(景行天皇)の御代に編纂されました。イハワレヒコの御代は正確には分かっていませんが、縄文時代後期~弥生時代と考えられます。よって、『ホツマツタヱ』に基づけば、縄文時代後期~弥生時代にはすでにタタラの技術はあったことになります。

4. ヲシテと古代錬金術

 さて、『ミカサフミ』や『ホツマツタヱ』に上に述べた内容が書かれていることを知って、ふと、これは錬金術のことではないか、と直感しました。

 「錬金術」という単語から、鉛を金に変えるだとか、うまい方法で大儲けするだとか、インチキめいた怪しげな印象がありますが、よく調べてみると、そうではないことが分かります。

 錬金術の起源は古代エジプト古代ギリシアに求められます。古代における錬金術とは、哲学であり、天文学であり、占星術であり、化学であり、薬学であり、魔術であり、といったものでした。古代人にとって、これらは「人間の技」ではなく「神の技」でした。もし錬金術をひとことで言い表すとすれば、それは人間が神と同じような存在になるための神聖な術、です。

 

 では、具体的にヲシテ文献錬金術の共通性について列挙してみます。

(1)ニココロ

  •  ニココロは、陰陽和合や調和へと至る(あるいは至った)精神のこと。
  • 錬金術の目的には、人間の霊性を高め、神のような完全な存在になることも含まれていた。

(2)丹、水銀、金

  •  ニココロの「ニ」は丹(辰砂、硫化水銀)でもある。丹の朱色(赤色)は神聖なる色とされた。また、丹は精製すると水銀になり、鍍金(めっき)に利用された。
  • 中世ヨーロッパにおける錬金術の最大の目的は「賢者の石」を作り出すこと。「賢者の石」はただの金属を黄金に変えるだけでなく、不老不死、人間の霊性の完成などを可能とする万能の石と信じられた。「賢者の石」を作り出す第1段階として硫黄と水銀を結合させた。そして、第2段階で黒色に変わり、第3段階で白色に変わり、第4段階目で赤色に変化したら完成とされた。「賢者の石」は硫黄と水銀の化合物(硫化水銀)、つまり辰砂である。そして、赤は「完全」「完成」を意味した。

(3)五大元素

  • ヲシテ文献によると、古代の日本人は、万物は空(ウツホ)、風(カセ)、火(ホ)、水(ミツ)、土(埴・ハニ)の五元素の組み合わせでできていると考えていた。
  • 古代ギリシャ錬金術でも、万物は火、空気(もしくは風)、水、土の四大元素、そして、エーテルと呼ばれる第五の元素の組み合わせでできていると考えていた。これは、古代インドの錬金術も同様。

 以上、ざっと思いついたのはこれくらいですが、調べていくとさらに共通項が見つかるかもしれません。引き続き調査を続けたいと思います。

 

文責:与左衛門、共同研究者:角大師

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