縄文の神聖幾何学

「ホツマツタヱ」「ミカサフミ」「フトマニ」に秘められた神聖幾何学の叡智を探る。

トホカミヱヒタメの秘密(1)

1.    天津祝詞の太祝詞

 全国の神社で毎日神主さんが唱える「大祓詞」(おおはらえのことば)という祝詞があります。「高天原(たかまのはら)に神留り坐す(かむづまります)~」で始まる祝詞で、神社でお祓いを受けたことのある方は聞き覚えがあるのではないでしょうか。

 大祓詞は2部構成になっていて、前半では、葦原中国の平定から天孫降臨した天孫が日本を治めることになるまでの日本神話の内容が語られ、そして、国民が犯してしまう罪とその祓い方が述べられています。また後段では、祓いを行うと罪や穢れがどのように消滅するかがさまざまな喩えによって語られています。

 気になるのは、前半部分の最後にある「天津祝詞(あまつのりと)の太祝詞事(ふとのりとごと)を宣(の)れ」という言葉です。神社本庁は、その言葉の後、一拍置いてから後半部分を唱えるように説明しています。その一拍の間、声には出さずに唱える言葉。大祓詞の核心。それが太祝詞です。

 それでは、太祝詞とは具体的に何なのか。それは大祓詞そのものであるとする説、「禊祓詞」(みそぎはらえのことば)という祝詞だとする説、ヒフミ祝詞だとする説、「トホカミエミタメ」(吐普加身依身多女)の八言だとする説、「アマテラスオオミカミ」の十言だとする説など諸説あるようです。

 その中で、私が注目しているのは「トホカミエミタメ」説です。平安末期から神祇伯世襲し、歴代天皇家の祭祀を司る白川家に伝えられた伯家神道では、それを太祝詞だとしています。この「トホカミエミタメ」という言葉は、今でこそ私たちの知るところとなっていますが、一昔前までは秘伝とされていたものです。それゆえに「太祝詞」として秘されてきました。

2.    八人の皇子

 「トホカミエミタメ」とはどういう意味なのか。

 『ホツマツタヱ』をご存じの方にとってはお馴染みのように、それは初代アマカミ(古代の天皇の称号)であるクニトコタチの八人の皇子の名前、すなわち「ト」「ホ」「カ」「ミ」「ヱ」「ヒ」「タ」「メ」のことです。八人の皇子はそれぞれ各地方に赴き、「トのクニサツチ」「ホのクニサツチ」等と名乗って、それぞれのクニを治めました。

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クニトコタチの八人の皇子

 よって、本来は「トホカミエタメ」であって、「トホカミエタメ」ではありません。おそらく国史として古事記日本書紀が漢字で編纂された際、神代文字で書かれたホツマツタヱ等の古史古伝焚書とされ、それに伴って「トホカミエタメ」は「トホカミエタメ」(吐普加身依身多女)に変わってしまったものと思われます。

3.    方位と季節の守り神

 ホツマツタヱによると、八人の皇子は死後、天に帰って星となり、方位と季節の守り神となります。面白いことに、トホカミヱヒタメのヲシテ文字の棒の数(0本~3本)は気温の高低を表す記号にもなっており、本数が多いほど暖かいことを示しています。

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方位と季節

4.    八芒星

 ホツマツタヱと同様の文字ヲシテで書かれた『フトマニ』という古文献があります。その中に載っているフトマニ図には、トホカミヱヒタメの8文字が円形に配置されています。ところが、前述の方位と季節を表すトホカミヱヒタメとは一部並び順が異なっています。じつは、それがミソでして。

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並び順の比較

 フトマニ図のトホカミヱヒタメを、一文字ずつト→ホ→カ→ミ→ヱ→ヒ→タ→メの順番に指さしていくと、八芒星の形を描くことが分かるはずです。

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トホカミヱヒタメが描く八芒星

 さらに、トホカミヱヒタメの外周には「アイフヘモヲスシ」という8文字が配置されています。これは「アワ歌」-アカハナマ イキヒニミウク フヌムエケ ヘネメオコホノ モトロソヨ ヲテレセヱツル スユンチリ シヰタラサヤワ-の各音節の頭文字を表しています。

 そして、一文字ずつア→イ→フ→ヘ→モ→ヲ→ス→シの順番に指さしていくと、トホカミヱヒタメの八芒星とは反対回りに、やはり八芒星の形を描くことが分かります。

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アイフヘモヲスシが描く八芒星

5.    マカバ

 さて、この八芒星を立体として考えると、どのような形になるでしょうか?

 以前、共同研究者の角大師さんが指摘したように、それは「マカバ」と呼ばれる形です(ちなみに八芒星だけでなく、フトマニ図も立体で表すことができます)。

 「トホカミ」の4文字を結ぶと正四面体になります。同様に「ヱヒタメ」の4文字を結ぶと正四面体になります。2つの正四面体は互いに上下逆さまになっていますが、それを重ね合わせた形がマカバです。(アイフヘモヲスシも同様)

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トホカミヱヒタメとマカバ

6.    チベット曼荼羅

 ところで、フトマニ図の中に秘められたマカバは、チベット曼荼羅を思い起こさせます。

 曼荼羅に描かれた六芒星、すなわち2つの三角形の重なりは、男性性と女性性の結合、陰陽の統合、宇宙のバランスの調和を意味するとされています。また、交差した三角形の中心は、あらゆるエネルギーが集約された万物創造の原点であり、また、すべてが回帰する最初の鼓動を象徴するそうです。

 これは、フトマニ図と同じといってよいでしょう。縄文人フトマニ図と仏教の曼荼羅は共通した宇宙観を表しています。

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曼荼羅六芒星

7.    ハトホルのマントラ

 さて、冒頭の伯家神道の話に戻ります。

 伯家神道には「祝之神事」(はふりのしんじ)という、皇太子が即位する際に「現人神」(あらひとがみ)となるために受けられる儀式があるそうです。そして、その起源は、古代エジプトでピラミッドの中で行われていたハトホルの秘儀にある、という話があります。

 また、伯家神道には「天津微手振」(あまつみてふり)と「天津息吹」(あまついぶき)という秘儀があります。これは天津息吹によって霊気を吸い、「ト、ホ、カミ、ヱミ、タメ」の五音(八言)を唱え、振魂(天津微手振)によって霊動を起こし、身体に蓄積せる邪気を祓うことをその根幹とし、丹田―肺―第三の眼(上丹田)へと神気を循環させる霊的呼吸法のことです。

 そして、ここから先は私見となりますが、私は、伯家神道で太祝詞とされる「トホカミエミタメ」とは、ハトホルの「エル、カー、リーム、オーム」の詠唱と関係あるのではないかと密かに思っています。

 ハトホルによると、「エル(EL)」は地、「カー(KA)」は火、「リーム(LEEM)」は水、「オーム(OM)」は気(空気)を表す音です。ここでいう地・火・水・気(空気)の四大元素とは、化学で学ぶ元素のことではなく、意識をもった聖なるエレメント、大いなる存在です。この聖なる四大元素のそれぞれに対応する音「エル、カー、リーム、オーム」を繰り返し詠唱することで、深い瞑想状態に入り、聖なる四大元素が息づく極めて精妙な領域に至ることができる、とのことです。詳しくは以前の記事「『新・ハトホルの書』より聖なる四大元素について(その1)」「同(その2)」「同(その3)」をご参照ください。

 声に出して「トー、ホー、カー、ミー、エー、ヒ(ミ)ー、ター、メー」と「エール、カー、リーム、オーム」を唱えてみると分かりますが、母音が全く同じです。そして、どちらも元素と対応しています(もっとも対応関係には違いがあります)。

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 さらに、私の考えでは、「トホカミヱヒタメ」のマントラアセンションとも関係するのですが、話が拡散しますので、稿を改めることにします。

 

文責:与左衛門、共同研究者:角大師

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