縄文の神聖幾何学

「ホツマツタヱ」「ミカサフミ」「フトマニ」に秘められた神聖幾何学の叡智を探る。

トコヨとウツシヨ

1.   鏡の舟

 『ホツマツタヱ ヤクモウチコトツクルアヤ(八雲討ち琴作る文)』に次のような一節があります。

クシキネアワノ サササキテ(クシキネ、アワの ササ崎で)
カカミノフネニ ノリクルオ(鏡の舟に 乗り来るを)
トエトコタエス クヱヒコカ(問えど答えず クヱヒコが)
カンミムスヒノ チヰモコノ(カンミムスビの 千五百子の)
ヲシヱノユヒオ モレオツル(教えの指を 漏れ落つる)
スクナヒコナハ コレトイフ(スクナヒコナは これという)
クシキネアツク メクムノチ(クシキネ厚く 恵む後)
トモニツトメテ ウツシクニ(ともに努めて うつし国)
ヤメルオイヤシ トリケモノ(病めるを癒し 鳥獣)
ホオムシハラヒ フユオナス(穂虫払い ふゆを成す)

 意味は以下のとおりです。

 クシキネがアワのササ崎にいるとき、舳先に鏡を掲げた舟に乗り、やって来る者がいる。名前を問うても応えない。しかし、クシキネの近習のクヱヒコがその者のことを知っていた。「かの者はカミムスビの数多くいる子どもの中で、教えの指から漏れ落ちた(それほど優秀な)スクナヒコナ様でございます。」クシキネはスクナヒコナを手厚くもてなし、その後、協力して病める人々を癒し、田畑から鳥獣や穂虫を払い、豊かな土地を成した。

 

 この文章の面白いところは、「鏡の舟」という言葉がキーワードとなっていて、鏡写しのように反転する内容が盛り込まれている点にあります。

 まずは「アワのササ崎」の「アワ」。これは近江の語源であるアワウミ(淡海)のことですが、同時にア(天)とワ(地)を含意します。

 つぎにクシキネとスクナヒコナ。クシキネは別名をオオナムチといいます。つまり、オオナムチとスクナヒコナは、大きい・小さい、多い・少ないという正反対の関係にあります。
 そして、最後は「ウツシクニ」。ササ崎は琵琶湖の東岸、現在の沙沙貴神社付近と推定されています。その対岸には、はるか昔、初代アマカミ(古代天皇の称号)クニトコタチの統治した「トコヨクニ」がありました。上記の文中にある「ウツシクニ」という言葉は、この「トコヨクニ」との対比で使われているのです。

2.   トコヨとウツシヨ

 古神道神道においても、トコヨ(またはカクリヨ)とウツシヨという言葉があります。トコヨ(常世)やカクリヨ(隠り世)は永久に変わらない神域を意味し、それに対して、ウツシヨ(現し世)は現実の世界を表します。

 この概念は縄文人の宇宙観を表したフトマニ図にも見られます。中心の円アウワは宇宙の根源、内側の円周アモトカミは目に見えない世界を表し、これらがトコヨ(カクリヨ)にあたります。真ん中の円周アナミカミは目に見えない世界と目に見える世界をつなぐ波動や言霊の働きです。そして、外側の二重の円周ミソフカミは目に見える世界を表し、これがウツシヨにあたります。

3.   色即是空

 紀元前5~7世紀頃のインドで、ある人物が悟りを開きました。

照見五蘊皆空   (しょうけんごうんかいくう)
色不異空 空不異色(しきふいくう くうふいしき)
色即是空 空即是色(しきそくぜくう くうそくぜしき)
受想行識亦復如是 (じゅそうぎょうしきやくぶにょぜ)

 

ありのままの世界は、美しい。
木も石も山も、美しい、
それぞれが「空」の一部だ。
「空」こそが
形ある物質や現象のほうとうの姿だった。
これまで
私がリアルだと感じていた世界、あれは
リアルな世界ではなく
私が感じていた世界でしかなかった。
仮想の現実。
 感じる。イメージする。
 意識する。判断する。
これらの固定観念や習癖が
自我(エゴ)を作り、ほんとうの私に
限られた世界像(パターン)を見せていたのだ。
(ポケットオラクル『般若心経 真言』(南風 椎著)より)

 「色即是空」の「色」はウツシヨ、「空」はトコヨのことです。つまり、私たちがリアルだと感じていた「現し世」(現実の世界)は、じつは「映し世」(仮想現実)に過ぎない、ということになります。

 余談ですが、上記の般若心経の現代語訳の本は共同研究者の角大師さんが25年ほど前にくれた本ですが、その訳文が本当にすばらしくて、私の大切な宝物になっています。

4.   波と粒子

 現代の物理学は、縄文人の宇宙観や仏教の教えを立証するかのようです。

 ひと昔前まで、電子は太陽のまわりを公転する惑星のように、原子核のまわりを廻っていると考えられていました。

 現在では、電子は雲のようにぼんやりと存在していて(確率の雲)、居場所がはっきりと特定できません。ところが奇妙なことに、それを観測すると粒として姿を現すのだそうです。そのことが、かの有名な「二重スリットの実験」で確認されています。

 確率の雲=トコヨ=空(くう)、粒子=ウツシヨ=色(しき)、ですね。

 また、ブラックホールの研究から生まれたホログラフィック原理によると、この宇宙はホログラムのように投影された幻影であると言います。まさにこの世はウツシヨ(映し世)なのかもしれません。

 

 

文責:与左衛門、共同研究者:角大師

ご意見・ご感想をコメントいただけると幸甚です。お待ちしております。