1. 宇宙の原初の音
2年ほど前に書いた記事『宇宙の原初の音、ウヌの音(ネ)』の中で、ヲシテ文献にある「ウヌの音(ネ)」はインドの聖音オームとおそらく同じものだろう、と書きました。今回、改めてヲシテ文献を読み直してみて、おそらくどころか、完全に一致していると確信しました。
以下は『ミカサフミ ワカウタノアヤ』の一節です。
ウイノメクリハ(初の巡りは)
アノオシテ (アのヲシテ)
アメツチワカツ(天地分かつ)
カタチナリ (形なり)
ヒトノウイネモ(人の初音も)
アニアミテ (アにあみて)
註.アニアキテ(アに開きて)か?
クチフサキフク(口塞ぎ吹く)
イキムレテ (息蒸れて)
ハナニカヨヒノ(鼻に通ひの)
ウヌノネハ (ウヌの音は)
モトアカノホル(元アが昇る)
オシテヨリ (ヲシテより)
ミツニワカレテ(三つに分かれて)
キヨキウト (清きウと)
カロクチリント(軽く散りンと)
ナカノヌト (中のヌと)
(以下、略)
意訳すると以下のとおりです。
宇宙は「ウイノメグリ」(初の巡り)から生まれた。その螺旋エネルギーを表しているのが、渦巻の形をした「ア」のヲシテ文字である。それは天と地を分かつ形である。
同じように、人の「ウイネ」(初音)も赤ん坊の産声のように「ア」から始まる。
そして、それは、口を塞いで息を鼻に通わせて出す「ウヌ」の音となる。
「ウヌ」の音は、宇宙創生原初の螺旋エネルギーが立ちのぼる「ア」の音から3つに分かれて、清い「ウ」と、軽やかに散る「ン」と、そして中の「ヌ」となったものである。
何のこっちゃ、と思われるかもしれません。
じつは上記の一節は、前回の記事『ヲシテ文献に伝わる宇宙の秘密』で書いた『ホツマツタヱ オノコロとまじなふのアヤ』と密接に関係しています。以下の図はそこからの引用ですが、詳しくは前回記事をお読みいただければと思います。
宇宙創生原初の螺旋エネルギーが立ちのぼる「ア」のヲシテ文字とは、下図のものです。
宇宙の中心から螺旋状に立ちのぼる「ア」の音は、下図のように、「ウヰ」の力により外に発せられ、トーラス(円環体)状にくるりと内へと反転し、「ウヌ」の力によって中心へと帰ります。
同様に、人のウイ音-赤ん坊の産声のような「ア」の音―が外に発せられ、それは「ウヌ」の音となります。つまり、「ア」「ウヌ」はトーラスを音で表したものといえます。
2. すべてを含む音
『ミカサフミ ワカウタノアヤ』によると、上記のように、宇宙の原初の音「ア」は「ウ」「ン」「ヌ」の3つの分かれるのですが、その後、「ウツホ(空)」「カセ(風)」「ホ(火)」「ミツ(水)」「ハニ(埴・土)」の聖なる5つの元素の働きにより、「ヰツナナワケテ ヨソヤスチ(五・七分けて 四十八筋)」、すなわち五七調のアワ歌48音「アカハナマ イキニヒミウク フヌムエケ ヘメネオコホノ モトロソヨ ヲテレセヱツル スユンチリ シヰタラサヤワ」に分かれます。さらに、それらの48音が組み合わさって言葉となり、「ソムヨロヤチ(16万8千(=5×7×48×100))」の物質が生まれます。
この内容から2つのことが分かります。
1つには、この世のあらゆる物質は、音がカタチとなったものだということです。実際、石のように固い物体でさえ、原子のレベルでは絶えず振動しており、耳には聞こえない音を発しています。また、クラドニ図形を見れば、音がカタチを生み出すことが一目瞭然で理解できますので、ご存じのない方はネットで調べてみてください。
そして、もう1つは、宇宙の原初の音とはこの世のあらゆる音を含んだ究極の音だということです。
3. 聖音オーム
ところで、ヨーガを学んでいる方はご存じのとおり、インドの諸宗教において神聖視される「オーム」というマントラがあります。
紀元前800~500年頃に成立した古代インド哲学の奥義書ウパニシャッドには、「一切の言語はオームによって浸透されている。オームこそこの一切である」「オームはブラフマンである。オームはこの一切である」といったことが書かれているそうです。ブラフマンとは、宇宙の根本原理のことです。
また、2世紀頃に成立した「マーンドゥーキヤ・ウパニシャッド」によると、オームの音は、「A・U・M・(無音)」の4音からなると書かれているそうです。
これって、ヲシテ文献の「ア・ウヌ」とそっくりだと思いませんか?
改めて、ミカサフミの一節を掲載します。
モトアカノホル(元アが昇る)
オシテヨリ (ヲシテより)
ミツニワカレテ(三つに分かれて)
キヨキウト (清きウと)
カロクチリント(軽く散りンと)
ナカノヌト (中のヌと)
上記の文章では「ア」から「ウ」「ン」「ヌ」の3つに分かれるとありますが、「中のヌ」とあるように、発音としては「ウ」「ヌ」「ン」の順番だと解釈できます。文体を五七調に調える中で、文章と発音の順序が不一致となったのかもしれません。
また、「ン」を軽やかに散るように発音すると、それはほぼ無音です。
まとめると「ア・ウ・ヌ・(ン:無音)」となります。
これは、インドの聖音「A・U・M・(無音)」と完全に一致していると言ってよいのではないでしょうか。
4. ア・ウヌの唱え方
さて、ア・ウヌとAUMが同じものだとすると、これはじつに大変なことです。
私はウパニシャッド等の古代インドの聖典には全く精通していませんが、ネットで調べる限り、AUMの具体的な発音のしかたに関する記述はないように思います。ところが、『ミカサフミ ワカウタノアヤ』には、それが書かれているのです!
これは、インドの宗教家たちや全世界で3億人以上いるヨーガの実践者たちに一大センセーションを巻き起こすくらいの一大事ではないでしょうか。
ア・ウヌの唱え方は、私の解釈も交えると以下のとおりです。
- 「ア」は宇宙の原初の音で、赤ん坊の産声のように(意味や思考・感情などを伴わない)純真無垢な音。
- 「ウ」も「ア」と同じく、どこまでも清らかな音。
- 「ウヌ」は口を塞いで息を鼻に通わせて出す音。つまり、「ヌ」は文字どおり発音するのではなく、むしろ軽やかなハミング音。
- ハミング音の後、軽やかに散って無音となる。無音を心の中で唱える。
さらにもうひとつ、重要なことがあります。
じつは「ヒトノウイネ」の「ウ」の文字は、通常のヲシテ文字ではなく、特殊文字となっています。
おそらく、たんに「人の初音」(赤ん坊の産声)という意味だけでなく、もうひとつの意味を持たせているのだと思います。
その特殊文字の「ウ」が意味するのは、宇宙の根源。そして、それは人間でいうと心臓にあたります。つまり、ハートからア・ウヌの音を発するようにするのです。私はそれこそが重要なポイントだと考えているのですが、それについては長くなるので、また稿を改めて書きます。
<2022年10月1日追記>
上記の『ミカサフミ ワカウタノアヤ』の一節より前の部分に、イサナギとイサナミの国生みに関する一節があります。二神は別々に分かれて天の御柱をまわり、出逢ったところで言葉を掛け合います。
イサナギ「あなにゑや うましおとめに あいぬ」
イサナミ「わなにやし うましをとこに あひき」
上記の「あ」「う」「わ」は、原文のヲシテ文字を見れば分かるのですが、じつはフトマニ図に描かれた宇宙の根源「アウワ」をなぞらえています。二神は、宇宙を生んだアメミヲヤにあやかって、国を生もうとしたのです。
そして、さらに、イサナギの歌になんと「ア・ウ・ヌ」の音が編み込まれていることに今回気が付きました。これはたまたまではなく、「あなにゑや」の後の2拍は、口塞ぎ、吹く息蒸れて結ぶ「うん」で、その後、「うましおとめに」と続けるのだ、とわざわざ書かれていることからも、明らかに意図されたものだと思います。
また、『ミカサフミ ワカウタノアヤ』によると、この二神の五七三の歌は月の満ち欠けを表しています。五七三を足し合わせると15。男神の歌う15音が新月から満月までの15日、そして、女神の歌う15音が満月から新月までの15日と、このように説明されています。
その解釈について、以前『もうひとつの国生み神話(3)』の中で、月の満ち欠けは、無から有が生じ、有から無に帰るという宇宙創造の秘密を表している、と書きました。
しかし、それだけではなく、もしかすると、これは「ア・ウ・ヌ」の口の形も表しているのかもしれません。
皆さんも実際にお試しいただきたいのですが、はじめに、満月のように口を丸く開いて声を出してみてください。そして、声を出し続けたまま、月が次第に欠けていくように、口をゆっくり閉じていってみてください。「ア~ウ~ン~」という音になりませんか? 本来の唱え方は、「ア」「ウ」「ヌ」の3音に分けて唱えるのではなく、口の形の変化によって「ア~ウ~ン~」と聞こえる連続音なのかもしれません。
文責:与左衛門、共同研究者:角大師
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