古事記では、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)は、天地開闢のとき一番最初に現れた神さまだと書かれています。
一方、ホツマツタヱやミカサフミ等のヲシテ文献では、ミナカヌシは、天地開闢の後、最初に生まれた人間だとされています。
「えっ、ミナカヌシって人間だったの? なんか、アダムみたい...」という感想を持つのは、私や共同研究者の角大師さんだけではないはず。
ところで、ヲシテ文献に書かれた縄文人の宇宙観と、古代インドのヴェーダ聖典に書かれた宇宙観は共通しているように思え、当ブログでも「古代インド」のカテゴリを設けて、それに関する記事を掲載しています。
ですので、ヲシテ文献を読んで今ひとつ意味が掴めなかったことが、ヴェーダ聖典を調べることで、理解できたりすることがあります。
今回もそうしたアプローチで、ミナカヌシの正体に迫りたいと思います。
1. ブラフマンとアメミヲヤ
・ブラフマン
ヴェーダ聖典では、宇宙の根本原理を「ブラフマン」といい、宇宙を創造した神を「ブラフマー」(ブラフマンを神格化した神)といいます。
・アメミヲヤ
ヲシテ文献では、宇宙を創造した神を「アメミヲヤ」(天御祖)といいます。
2. アートマンとミナカヌシ
・アートマン
「ブラフマン」という用語とセットになるのが「アートマン」です。
アートマンの本来の語義は「呼吸」です。
そこから転じて、「意識の最も深い内側にある個の根源」「本当の自分」を意味します。漢字で「真我」と訳されたりします。
また、アートマンの語源はサンスクリット語の Atma(アートマ)で、「最も内側」を意味します。
・ミナカヌシ
ヲシテ文献の「ミナカ(御中)ヌシ」は、アートマンの語源「最も内側」を想起させます。
また、以下の一節にあるように、ミナカヌシは「イキス」(呼吸)と関係している点も、アートマンの本来の語義「呼吸」と共通しています。
ホツマツタヱ18アヤ
「ウツホ・カゼ・ホ(空・風・火)と ミヅ・ハニ(水・埴)の 交わり成れる ミナカヌシ」
カクノミハタ アワウタのアヤ
「アはウツホ(空) イはカセ(風)ウはホ(火) エのミツ(水)と オのハニ(埴)五つ音 交わりて ヒトのイキス(呼吸)と 成りてより」
もし、ミナカヌシ=アートマンだとすると、ミナカヌシとは「天地開闢の後、最初に生まれた人間」というより、「意識の最も深い内側にある個の根源」「本当の自分」「真我」ということになります。
3. 梵我一如
・ヴェーダ聖典
ヴェーダ聖典の核心は、ブラフマンとアートマンは同一であると知り、永遠の至福に到達しようとするもので、それがヴェーダにおける究極の悟りとされています。
それをひとことで表わした四字熟語が「梵我一如」です。「梵」はブラフマンを1音で表わした文字で、また、「我」はアートマンを表わし、両者はひとつであるという意味です。
・ヲシテ文献
ヲシテ文献では、ヒトの心の主体であるタマ(魂)はアメミヲヤの分身(ワケミタマ)であり、ヒトはアメミヲヤに常に守られている、とされています。
また、フトマニ図の中心アウワは、マクロコスモスである宇宙創造神アメミヲヤの位置を表すと同時に、ミクロコスモスであるミナカヌシの位置でもあります。
これらは「梵我一如」と同じ宇宙観といってよいと思います。
4. 心臓の中の小さな空間
・アートマン
ヴェーダ聖典の奥義書であるウパニシャッドによると、アートマンは心臓の中の小さな空間に宿っているとのことです。
「純粋意識からなるかのプルシャ(アートマン=ブラフマン)は~、心臓の内部にある虚空と言われるものの中に横たわっているのだ。」
原典訳ウパニシャッド 岩本裕訳 ちくま学芸文庫 P197より
チャーンドグヤ・ウパニシャッド第八章第一節
「さてこのブラフマンの都城(身体の比喩的表現)の中に、小さな白蓮華の家屋(心臓)があり、その中に小さな空間がある。その中に存在するものこそ人の探求すべきものであり、実に認識しようとされるべきものである。」
同書P168より
・ミナカヌシ
フトマニ図の中心アウワの「ウ」のヲシテ文字は、アメミヲヤの「ウイノヒトイキ(初のひと息)」を表します。この最初の呼吸から宇宙が生まれました。(アートマンの本来の語義「呼吸」とも通じますね)
フトマニ図の中心アウワの「ウ」は、ミクロコスモスであるヒトでいうと、それは心臓に当たります。「ウ」のヲシテ文字をよく見ると、心臓の中の小さな空間がしっかり描かれています。
ミナカヌシは、はるか昔の原初の人間のことではなく、私たちひとりひとりの心の中の最奥に住まう、自分の根源、自分の本質、本当の自分のことだと思います。
では、本当の自分であるミナカヌシにはどうしたら会えるのか、また、自分はアメミヲヤの分身であることをどうしたら悟ることができるのか。
じつは、その方法はアワ歌に隠されていることが分かったのですが、長くなりますので、また後日、記事にしたいと思います。
文責:与左衛門、協力:角大師
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