アカハナマ イキヒニミウク
フヌムエケ ヘネメオコホノ
モトロソヨ ヲテレセヱツル
スユンチリ シヰタラサヤワ
これは「アワ歌」と呼ばれ、いろは歌のように、ヲシテ48文字をすべて1度ずつ用いてつくられた五七調の歌です。イサナギとイサナミが作り、民に教え広めました。
その後、アマテルの命により、長女ワカヒメがその役目を引き継ぐことになります。その任につくにあたり、ワカヒメは両親のこころをつらつらと考えてみます。父母はどのような思いを込めてアワ歌を作り、どのような願いをもって民に教え広め、そして国を生んだのだろうか、と。
以下は「ミカサフミ ワカウタノアヤ」の一節です。
アワムチニ ココロツクセト
ニフノカミ
アマテルはワカヒメに言いました。
昔、私たちの両親アワムチ(イサナギ、イサナミの尊称)はアワ歌を民に教え広め、国を生みました。そなたはその後を継ぎ、心を尽くすのです。そなたにニフノカミの称号を与えます。
アネノオシヱニ
ヤヤサメテ ヤワシアラハス
アワムチノ モトノココロオ
ツラツラト オモンテミレハ
アメノリノ コトハノハナハ
ワカヒメはアネ(宇宙の根本)の教えにようやく目覚めて、やわし(和し、陰陽の統合)を表したアワムチの元の心をつらつらと慮ってみれば、アメノリ(天の法則)の言葉の出だしは、
アカハナマ アタカクノホリ
アナルヒノ ワカハテルマツ
タラチヲノ
「アカハナマ」。「ア」(天)に高く昇る「ア」(ウツホ(空))なる太陽は、松の若葉をきらきらと照らすように、父のような存在です。
イキヒニミウク ソヱウタハ
ヒノテノカセノ ナルイキス
ココロサタメテ
「イキヒニミウク」の添え歌。日の出の清々しい風を吸って、心が静まっていきます。
フヌムエケ モトヲノコエオ
ワケシレハ クハルオタキニ
カソエウタ
「フヌムエケ」は、ヲ(陽)の元を分け知れば、来る春を、季節と方位を司る天の八神「トホカミヱヒタメ」の「タ」に、同じく季節と方位を司る地の五神「キツヲサネ」の「キ」(タもキも春・東を表す)に織り込んだ数え歌。火(ホ)の暖かさを伝えてくれます。
ヘメネオコホノ ナソラエハ
ヒトノヘナミノ アマノハラ
ムムネハキヨク
「ヘメネオコホノ」がなぞらえていること。人は大海原のなかの、ひとつの波のようなもの。波に洗われ、体の内側から(ムムネ、六腑のおおもと)清められます。
モトロソヨ オコリアカシテ
カヱハニニ タカエウマルル
タトエウタ
「モトロソヨ」の「オ」の母音は、凝り明かしてハニ(埴)に変える。違えて生まれること(新生)の喩え歌です。
ヲテレセヱツル タタコトノ
ウタニミチヒキ ウムクニノ
マタクトホレハ
「ヲテレセヱツル」は、只言(ただのことば)からアワ歌へと導き、それが全くもって通り(全国に浸透し)、クニを生む様子を表します。
スユンチリ コトホキスクニ
ミオタモツ ヨヨナカラエノ
ヰワヒウタ
「スユンチリ」は、健やかに身を保ち、長生きすることを言祝ぐ祝い歌です(「クニ」の永遠の繁栄も含意)。
シヰタラサヤワ メハクニノ
ツキトミヤヒオ アミヤワセ
ヰミナアラハス
「シヰタラサヤワ」は、メ(陰)の働きがクニのツキ(付き。物質的要素。また月も含意)とミヤヒ(慈しむ心、思いやる心)を編み和して、まことの姿(実体あるクニ、母なる大地)を表します。
以上がワカヒメ様の理解した、アワ歌に込められた父母の思いです。
イサナギとイサナミの先代のアマカミ(古代天皇の称号)、オモタルとカシコネの治世の末期、農作物の減収にみまわれ、飢えに苦しむ人々が豊かな人々から食糧を強奪するようになり、世の中は混乱を呈してくるようになります。そうした中で、次代のアマカミに就任したイサナギ・イサナミは、水田の大規模な開発を推し進めるとともに、世の乱れの原因は言葉の乱れにあると考え、アワ歌を作って、民に教え広めることにしました。
二人はアメノリ(宇宙の法則)に基づいて、ウツホ(空)→カセ(風)→ホ(火)→ミツ(水)→ハニ(埴)の順にこの世界が生じるということ、そして、国を生むということもアメノリに基づくものであることをアワ歌に込めました。
そして、二人が思い描いた国は、父なる太陽と母なる大地に育まれ、人々が元気はつらつと暮らし、あたたかく、清らかで、健やかに長生きして、思いやりにあふれた国でした。それが、この国を生んだイサナギ、イサナミのこころです。
そして、じつは、それをたった2文字に凝縮したことばが「クニ」です。
「ク」のヲシテ文字は、△の頂点にある太陽から下に向かって光が燦々と降り注ぐ様子を表します。
また、「ニ」の文字のほうは、じつはこれが『ワカウタノアヤ』の重要なキーワードとなっていて、平和で慈愛に満ちた笑顔あふれることを表します(詳しくは「ニココロを育む」をご参照ください)。
つまり、イサナギ・イサナミは、陽の光が燦々と降り注ぎ、平和で慈愛に満ちた笑顔あふれる楽園を「クニ」と呼び、そうしたクニ作りに力の限りを尽くしたのです。
文責:与左衛門、共同研究者:角大師
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